パート 3:
AIにおける優位性の獲得

著者:Eric Hanselman、S&P Global Market Intelligence

AIの可能性を最大限に引き出すためには、組織には最も高度なユースケースをサポートする形でそのメリットを提供することが求められます。多くの組織がエッジの能力について語る一方で、顧客、従業員、ターゲットユーザーの近くでAIを提供する運用能力を実際に構築している組織はほとんどありません。そのパフォーマンス向上のメリットは大きく、ユースケースの拡大は魅力的です。エッジAIは、リアルタイム推論への道程における重要なステップと多くの人々から見なされています。エッジにおける主な課題は、接続性と運用規模です。AIアプリケーションのライフサイクルでは、従来のアプリケーションよりもはるかに大量のデータ、モデル、テレメトリの移動が必要となります。エッジでのスケーリングにおける根本的な問題は、管理すべき場所の数が膨大になることです。インテリジェントな計画と実装でこれらの問題に対処できますが、ほとんどの企業はこの課題の把握を始めたばかりです。

Verizonが委託し、451 Researchが実施した「Verizon AI at Scale」調査により、企業の現在のエッジAIの導入状況と将来の目標に関するインサイトが明らかになりました。エッジは大半の企業にとって新たなインフラ要素であり、回答者のうちエッジコンピューティングを活用しているのは3分の1に過ぎず、AIアプリケーションを導入しているのはわずか2%です。広範な市場調査においては、エッジの一貫した定義に到達することさえ複雑な場合があります。重要なのは、AIの将来的価値の多くがエッジで発揮されるという点に大多数が同意していることです。

現在、AIエッジ利用が低水準にとどまっている要因の1つは、企業による自己制限です。AIユースケースをサポートする能力や接続性がない場合、企業はそれらを検討しようとしません。これは競争優位をもたらす重要な機会を逃すリスクがあるものの、回答者の多くはその可能性を認識しています。AIの真の働きは推論によってなされ、推論に最適な場所はAIの出力が使用される場所です。迅速な対応が重要な場合、エッジは最も速いリターンを生みます。回答者らは、エッジでのリアルタイム推論から恩恵を受けるユースケースを多数特定しました。医療分野では、臨床AIアプリケーションと緊急ケアのトリアージがリストの上位を占めました。製造業では、高度な品質管理と工程制御が鍵となりました。公益事業の回答者らは、分散型グリッド制御とインフラ運用を挙げています。これらはすべて、データが生成される場所にAI機能を配置することに依存しています。

効果的なエッジAIには、従来のエッジアプリケーションを超えるレベルの計算能力と接続性の両方が必要です。製造業における機械学習ベースのマシンビジョンなどの用途は広く普及しており、限られた接続性でも十分に機能します。再トレーニングの頻度は低く、拠点間での運用上の調整やデータの共有もほとんどないケースがしばしば存在します。しかし、同様の環境で適応型分析やサプライチェーン最適化を取り入れたAIを導入するには、拠点間を調整し展開の運用面を管理するための強化された接続性が必要となります。運用時のテレメトリデータは、モデルの監視と再トレーニング用にフィードバックされ、更新されたモデルが定期的に配布されます。調査の回答者らは、AI結果の遅延により特定のアプリケーションが制限されることを懸念していましたが、ローカルの環境へのAIの導入では、物理的距離によるレイテンシーを克服できます。

エッジAIの実装には、インフラ面でさらなるメリットがあります。エッジAIはローカルで分析を行うことで処理負荷を分散し、集中型リソースへの負担を軽減できます。エッジのAIエンジンは、生データをイベントやメタデータに変換することで、データセンターやクラウドに返送されるエッジデータの量とコストを管理するのに役立ちます。

エッジAIの運用スケーリングには、モデルのライフサイクルを導入・管理するための自動化が不可欠です。複数の場所にモデルを展開しセキュリティを維持する作業は、ITチームに過度の負担を強いる可能性があります。多くの企業が自動化の強化に努めているものの、まだ使いこなせているとは言えません。特に注目すべきは、調査回答者の多くが自動化を「AIによる期待されるメリット」であると同時に「AI運用を支える必須要素」とも認識している点です。これはエッジAIの導入において、包括的かつ多面的なアプローチの必要性を示唆しています。

エッジAIのメリットを活かすためには、計画段階での入念な投資が有効と考えられます。接続性と運用スケーラビリティの基盤を構築することは、AIの真価を発揮させる成功要因となり得るのです。

Eric Hanselman (エリック・ハンセルマン) 451 Researchプリンシパルリサーチアナリスト

Eric Hanselmanは、S&P Global Market Intelligenceのチーフアナリストです。彼は、情報セキュリティ、ネットワーク、半導体といった多岐にわたる専門分野、ならびにSDN/NFV、5G、エッジコンピューティングなどの融合領域における豊富な実務知見を活かし、テクノロジー、メディア、通信という幅広いポートフォリオにわたる業界分析を統括しています。

さらに、S&P Globalのクライアントがこうした混迷する状況を乗り切り、潜在的な成果を最大限に活用できるよう支援しています。彼は、米国電気電子技術者協会(IEEE)の正会員、公認情報システムセキュリティ専門職(CISSP)認定者であり、VMware認定プロフェッショナル(VCP)の資格も有しています。また、業界の主要なカンファレンスでも頻繁に講演を行っており、テクノロジー ポッドキャスト「Next in Tech」のホストも務めています。

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