パート 1:
AIインフラの重要性

著者:Eric Hanselman、S&P Global Market Intelligence

組織がAIの導入においてより成熟した段階へと進むにつれ、AIに対応したインフラの要件はますます重要になっています。初期の実験段階から広範な導入へと移行するためには、AIアプリケーションのライフサイクル全体にわたる対応能力が求められます。これには、より優れたデータセキュリティ管理だけでなく、必要な時に必要な場所でデータを提供できる能力も含まれます。AIアプリケーションにおいて、データは機能を構築するための原材料です。AIの価値を最大限に引き出すためには、組織はアプリケーション開発パイプラインと同様の方法でデータパイプラインを構築することが重要です。さらに、それを支えるインフラと接続性が不可欠です。

Verizonが委託し、S&P Global Market Intelligence傘下の451 Researchが実施した最新の調査は、AIインフラに関する組織の理解、期待、計画の変遷を反映しています。企業がAIを支えるインフラ要件への理解を深めるにつれ、その注目点は進化して行きます。AI導入の初期・実験段階にある企業は、モジュール性とスケーラビリティの重要性を過小評価しがちです。それらの企業は、特定のユースケース向けに単一モデルをサポートするようインフラを最適化する傾向があります。

小規模な実験ではこのアプローチで十分かもしれませんが、企業規模のユースケースに移行する際には様々な課題が報告されています。主な課題は、インフラの柔軟性と拡張性、セキュリティ統合、そしてハイブリッド環境への対応準備に集中しています。柔軟性が課題となる背景として、パイロットプロジェクトと本番環境で使用するモデルが異なるケースが想定されます。モデルの能力とそれを支えるAIアーキテクチャが急速に進化する中、組織はプロジェクトのライフサイクルを通じて多様なモデルを活用することになるでしょう。さらに重要なのは、トレーニングと同様に重要となる導入と監視を含め、モデルの完全なライフサイクルを考慮に入れることです。AIインフラには、これらの新しいパターンに対応できるだけの柔軟性を備えることが求められます。

AIにおけるデータセキュリティ要件は、多くの企業で現在運用されている基準よりもはるかに広範なものとなります。規制業界の調査参加企業は、データおよびインフラセキュリティプロトコルが成熟している傾向にありました。しかし、こうした既存の対策でさえ、追加のデータ 処理やクリーニング、API、プロンプト、出力周りの新たな保護を必要とする複雑なAI環境を保護するには不十分と認識されています。

多くの組織はクラウドベースの実験からAI導入を開始しますが、機密性の高い情報を取り扱うプロジェクトではオンプレミスインフラを選択するケースも見られます。導入初期の選択肢にかかわらず、ほとんどのAIの導入は最終的にコスト、セキュリティ、パフォーマンスのバランスを取るために、クラウドとハイブリッドインフラを含む形に発展します。新たなモデル、サービス、機能が絶えずリリースされており、これはAIの機能性と有効性を向上させる重要な機会を提供します。ハイブリッドインフラを効果的に機能させるためには、クラウドリソースだけでなく、データリソースとAIワークロードを接続するための高性能なネットワーク接続も必要であることが、各組織の調査で明らかになりました。ハイブリッド環境は、管理が複雑になる可能性があり、特に慎重な設計・実装がなされていない場合にはその傾向が顕著になります。とはいえ、セキュリティとネットワーク計画を統合的に設計すれば、ハイブリッド環境の運用を簡素化でき、調査対象者が指摘した課題の多くを克服できます。

本調査が明らかにした課題の一つは、経営層のAIインフラの状況に関する理解と、AIアーキテクト・実装者が直面する現実との間に生じる可能性のある認識ギャップです。本番AI環境の要件は、初期のパイロットプロジェクトを支えるものとは大きく異なります。パイロットプロジェクトはユースケースを洗練させる上では有効ですが、本番環境への移行にはマインドセットとインフラアプローチの変革が求められるのです。インフラ要件に関する認識のギャップは、重要なAIプロジェクトを危険に晒す可能性があります。最新の451 Research「Voice of the Enterprise: AI Infrastructure」調査によれば、予算策定における問題がAIプロジェクトが失敗する主な要因となっています。AIプロジェクトの長期的な成功を保証するためには、組織横断的かつ明確なコミュニケーションが不可欠です。

AIは多様なユースケースにおいて強力なメリットを提供し得るとはいえ、その実現には慎重な計画立案と、インフラに関する新たな考え方が必要となります。モジュール化され、相互接続性があり、拡張可能な基盤から構築を開始すれば、組織はコスト管理を効率化し、AIプロジェクトが成功する確率を高めることができます。

Eric Hanselman (エリック・ハンセルマン) 451 Researchプリンシパルリサーチアナリスト

Eric Hanselmanは、S&P Global Market Intelligenceのチーフアナリストです。彼は、情報セキュリティ、ネットワーク、半導体といった多岐にわたる専門分野、ならびにSDN/NFV、5G、エッジコンピューティングなどの融合領域における豊富な実務知見を活かし、テクノロジー、メディア、通信という幅広いポートフォリオにわたる業界分析を統括しています。

さらに、S&P Globalのクライアントがこうした混迷する状況を乗り切り、潜在的な成果を最大限に活用できるよう支援しています。彼は、米国電気電子技術者協会(IEEE)の正会員、公認情報システムセキュリティ専門職(CISSP)認定者であり、VMware認定プロフェッショナル(VCP)の資格も有しています。また、業界の主要なカンファレンスでも頻繁に講演を行っており、テクノロジー ポッドキャスト「Next in Tech」のホストも務めています。

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